公害問題を大いに語り合う!
公害列島だった日本
公害問題について激論をかわす
しゃかじぃがまだ大学にいた頃、日本列島を襲った公害の多発で非常に多くの国民が重い疾患で苦しんだり、日常生活にもだんだん悪影響が浸透して、これは何とかしなければという気持ちになり、若い仲間が集まって①公害問題の現状把握、②公害発生への警告はなかったか、③科学技術の在り方、④公害問題への有効な対策などを語り合うことになった。
夏休みでもあり、私の故郷の石川県の白山山麓にあった金沢大学の白山研究所で若者が集い激論をかわすことになった。
その前段として日本の公害問題について述べたいと思います。
第二次世界大戦後の復興期の日本
公害列島日本という言葉は日本史の教科書でも論じられた用語です。
日本各地で公害が多発し大きな社会問題としてクローズアップされました。
第二次世界大戦後、戦争で荒廃した国土を再建しようと日本国民一体となって経済再建に取り組み、朝鮮戦争特需なども影響し急速に日本経済は成長しました。
1970年代 高度経済成長を更に加速させるため、新日本全国総合開発計画 が発表され全国各地の工業開発の指針が打ち出されました。
この時期に呼応するように全国各地で公害問題が多発し、公害列島日本の用語が使われるようになりました。
このような状態が導かれた背景には高度経済成長により国民生活水準が向上し、冷蔵庫、電気洗濯機、エアコンなどの家庭家電や自動車などの普及が急速に進み、工場生産、家庭消費のため従来とは異なった次元で多くのエネルギーが消費され、同時に空気や土壌の汚染が進んだことが考えられます。
この公害問題を象徴したのが四大公害病です。

四大公害病発生地
画像:インターネットより引用
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水俣病
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新潟水俣病
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イタイイタイ病
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四日市ぜんそく
工場排水中の有機水銀による疾患である①水俣病そして②新潟水俣病、鉱山や精錬工場から排出されたカドミウムを原因として富山県神通川流域で発生した③イタイイタイ病、四日市コンビナートから排出された大気汚染による④四日市ぜんそくが四大公害病です。
高度経済成長、重化学工業化の進展により河川や大気などの環境汚染が拡大し、経済繁栄、生活水準向上と引き換えに多くの重篤疾患の患者さんを生み出すことになりました。
白山研究所に向かう山道と秘境温泉「岩間温泉」
白山研究所を目指してバスに乗り山道を登っていったが、途中は横を見ると断崖絶壁、一歩間違えると奈落の底に転落の危機が待ち構えていた。

白山研究所への山道
画像:インターネットより引用
この画像はガードレールもついていて比較的安全だが、ガードレールのないところがほとんどで、横に木々はなく切り立った絶壁が続くところも多かったのを覚えています。
体の大きい割に臆病なHさんはバスが走り抜ける断崖絶壁を見るたびに「アッアッ~」と大きな声で悲鳴を上げ続け、皆の笑いを誘っていました。
しかし、彼の悲鳴は決してオーバーではなく、本当に危険な山道でした。
白山研究所に到着したところに秘境温泉中の秘境とも言われる 岩間温泉の山崎旅館 がひっそり立っていました。
下の画像で山間の岩間温泉の位置を見ただけでも、いかに人が行きにくい秘境に建物があることが分かると思います。
白山研究所に到着してすぐ公害問題についての議論を開始しました。

岩間温泉・白山研究所の位置

岩間温泉山崎旅館
画像:インターネットより引用
公害発生を告知するものはなかったのか?
公害が大きく社会問題として捉えられ始めた頃、まだ政府や自治体、企業の対応は遅々として進まず、どんどん被害が拡大していきました。
国の公害認定はかなり後手後手となり、公害による重篤な疾患で苦しむ患者さんの救済活動は本当に遅れてしまいました。
企業は排水などに有害物質が含まれることを認めず、否定する姿勢を貫きました。
国も原因究明や対策を先延ばしにし、被害の拡大を招いてしまいました。
法廷でもなかなか早急に結論を出せず、被害者の患者さんの苦しい状態を救済する手立てとはなりませんでした。
自然の生き物は人間より先に警告を発する
水俣病で患者が発生する前に、企業の工場排水が原因であることを示す自然破壊・汚染が既に起こっていました。
熊本県の水俣で魚の大量突然死が発生 する事件が起きていたのです。
この時工場排水の成分分析は行われず、4年後に水俣病の患者が発生したのです。
新潟水俣病でも魚が汚染され、イタイイタイ病では鉱山の周辺の木々や河川下流の稲、魚が汚染され、四日市でも魚の汚染 が認められていました。
自然界に存在する生き物が発する警告を無視する姿勢が大きな公害病を引き起こした と言っても過言ではありません。
この時点で率直に危険を予知する現象ととらえ行動を起こしていたら多くの罪のない患者さんを生み出すことにはならなかったと思われます。
現状を座視することなく具体的対策を実施
経済を優先する国や自治体、企業の姿勢にとどまらず、高い生活水準を求めてこれらの政策に根本的な疑問を感じずに不問にしてきた国民一人ひとりも責任の一端を担っているかもしれません。
国に成り代わり、四大公害病で患者を助けるために立ち上がった人達は弁護士や学者、医師など多くの市民でした。
今は国・自治体の積極的な環境対策もあり、かなり汚染していた全国各地の河川もきれいになり魚も戻り、森に緑が戻りつつあります。
建築資材の調達のためにスギなどの木々の優先植林、ブナなどの広葉樹の伐採など山々の森も荒廃の一途をたどっていましたが、森を取り戻そうと多くの人達の努力で植林の意義が問い直されようとしています。
集中豪雨が問題になっている今日この頃ですが、山で保水力のある木々がどんどん伐採されたことも一因と考えられます。
気候のせいだけにするのではなく、環境を保全していこうという基本的な考え方を広く国民一般に周知させていく活動も重要 だと思います。
一般家庭ごみの分別回収も最近徹底して来ましたが、まだまだ自覚の足りない人も多く、道路などにゴミを捨てる人も後を絶ちません。
病院なども家庭と同じように病院内で使用された汚水をそのまま用水に流してしまうようなことが過去にはありましたが、最近は安全面も十分考慮され処理されつつあると思います。
大気汚染も工場排気ガスの規制、自動車排気ガスの規制などでかなり改善してきています。
やはり、国・自治体や企業の環境汚染対策も重要ですが、国民一人ひとりが自らの環境に気を配り、豊かな自然、美しい河川、豊かな緑をたくわえた山林、豊かな魚介類が繁殖する海を造り出すことを力を合わせ実現していく以外方法はないと思います。
科学技術の在り方
科学技術に携わっている人はこれまで社会との関係で自分の仕事を考えてみる視点が欠けていることも多々あったと思います。
科学技術が進歩するのは別に悪いことではないし、推進すべきですが、実際自分が造り上げた科学技術が世の中でどのように用いられているか、良い結果をもたらしている面と、副作用とでもいうか弊害を生み出すことに繋がっている可能性も十分視野に入れていく必要がある と思います。
さらに弊害となって社会に害毒となっている現象を引き起こすことに繋がった時には、これを防止するための科学技術を考案していくことも必要になると考えられます。
科学技術と社会との関係を考える学問領域も今後発展させるべき ではないでしょうか。
激論を終え白山山麓を散策
公害問題全般にわたり激論した2日間を終え、朝、目を覚ますとキツツキが木をつつく音がしました。
人里離れたこの白山山麓の自然豊かな新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで、山麓の散策に出掛けました。
途中細い山道を通っている時、突然目の前を崖の上からおびただしい数のヘビが降りて来て谷の方へと落ちていきました。

散策の山道
画像:インターネットより引用
まさに蛇崩とでも表現したくなる光景でした。
ヘビの集団行動に驚きましたが、皆あっけにとられてしまいました。
しばらく山道を降りていくと、凄い光景に出逢いました。

岩間温泉噴泉塔
画像:インターネットより引用
岩の割れ目から温泉が噴き出ているのです。
この国指定特別天然記念物の噴泉塔から噴き出た温泉は摂氏100℃近い熱湯ですが、手取川支流の中ノ川に注ぎこんでいました。
この中ノ川の岸辺に近い所を石で囲い天然の温泉を作り、誰が持って来たのか昔学生がよく飲んでいたガロン瓶に入った特大麦酒サッポロジャイアンツを皆で飲み、激論で疲れた身体を癒し、2日間の討論会は幕を閉じました。
この凄い噴泉塔こそ自然の営み、人間が作り出した公害の問題を語り合った仲間たちへの素晴らしいプレゼントになったのではないでしょうか。
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